がんばらにゃ2016年8月号
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食にまつわるちょっとした疑問について科学ライターの松永和紀さんがわかりやすくお伝えします。Vol.31PROFILE食品の安全性や環境影響等を取材している科学ライター。京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち独立。「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学」(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞2008を受賞。消費者団体「FOOCOM」(フーコム)を設立し、「FOOCOM.NET」(http://www.foocom.net/)を開設した。2012年『お母さんのための「食の安全」教室』(女子栄養大学出版部)を刊行。松永 和紀さん 食物アレルギーの患者の割合は、厚生労働省の研究班によれば、3歳児で約5%、小学生〜高校生で1.3〜4.5%。発症していない子どもの保護者の間でも「いつか、症状が起きるかも」という不安が強いようです。でも、俗説には振り回されないで。予防や治療の研究が急ピッチで進んでいます。子どもの食物アレルギー変わりつつある予防・治療 アレルギーは、一般の人にはまったく問題がない食べ物が、患者にとっては生死をも左右します。社会の理解はまだ十分とは言えず、患者の苦労は尽きません。発症していなくても「いつかは」と心配を募らせてしまう人もいます。 こうしたことから、アレルギーについては「こうすれば防げる、治る」という俗説が流れやすいのです。本欄では2014年7月号で、「食品が原因のアレルギー 自己流の対応はダメ」とお伝えしました。アレルギー患者の対処法は、原則として「原因となる食品を食べない」ということ。でも、自己判断で、食事から牛乳や卵などを除去して栄養不良になるケースもあるため、「必ず医師の判断を仰いで」と書きました。 ところが最近、「幼い頃に食べている方がアレルギーを発症しにくい」という情報が流れるようになってきました。どういうことでしょうか?実は、最新の予防研究で、思いがけないことがわかってきたのです。 2015年、一流の国際医学誌に画期的な論文が掲載されました。重症の湿疹や卵アレルギーを持つ生後4カ月から11カ月までの乳児640人を2グループに分け、片方にはピーナッツバターなどのピーナッツ製品を幼い頃から食べてもらい、片方は摂取を控えてもらいました。そして生後60カ月で、ピーナッツアレルギーがあるかどうか調べたのです。すると、食べていたグループでは、ピーナッツアレルギーを発症した子どもが1.9%だったのに対し、食べるのを控えたグループは、13・7%に上りました。研究グループは「早く食べ始めた方がピーナッツに対する免疫応答の調節がよく発達し、発症しにくいのかも」と指摘しています。同様の結果は、卵や小麦などほかの食品を用いた別の研究でも出始めています。 これらの研究を、どう考えたら良いのでしょうか?離乳期から少しずついろいろなものを食べさせて反応を見て、異常があったら医療機関を受診する。この流れは、変える必要はありません。勝手に「アレルギーが怖いから、わが子には牛乳や卵、小麦などは食べさせたくない。できるだけ食べ始めるのを遅らせたい」などと自己判断してしまうのが、良くないかもしれない、ということなのです。症状が出ないのであれば、幼い頃からさまざまな食品に親しみ、「食べる幸せ」を大事にしましょう。 アレルギー研究は今、急速に進みつつあります。予防だけでなく、患者の治療法も変わってきており、患者が原因となる食べ物を少しずつ食べて治して行く、という方法も研究されています。疑問はかかりつけ医に相談してみてください。自己判断は禁物食べる幸せ大事に幼い頃から食べると発症率が低い?2016.8月号4

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