がんばらにゃ2012年11月号
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食の安全安心を考えるVol.6食にまつわるちょっとした疑問について科学ライターの松永和紀さんがわかりやすくお伝えします。2012.11月号4PROFILE食品の安全性や環境影響等を取材している科学ライター。京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち独立。「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学」(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞2008を受賞。消費者団体「FOOCOM」(フーコム)を設立し、「FOOCOM.NET」(http://www.foocom.net/)を開設した。酒を愛する夫、受験勉強中の娘とのてんやわんやの日々も楽しんでいる。松永 和紀さん食品添加物も使って浅漬け食中毒を防ぐ 白菜の浅漬けによる食中毒で死者が出ました。ニュースを聞いて、「浅漬けや生の野菜は危ないの?食べちゃいけないの?」と不安になった人も多いことでしょう。いえいえ、家庭用の対策と、工場用の対策があります。しっかりと分けて、理解していただきたいのです。 北海道で8月、白菜浅漬けの食中毒事件が起き、169人の患者が発生し8人が亡くなりました。原因となった腸管出血性大腸菌O157は、土の中にいることも多い菌なので、野菜に付いている場合があります。腸管出血性大腸菌は75℃で1分加熱すれば死ぬのですが、浅漬けはほとんどの場合、加熱しません。そのため、これまでも浅漬けが原因で何度も食中毒が発生しており、とうとう、とても大きな事故が起きてしまいました。 だからといって、野菜は必ず加熱しなければならないわけではありません。家庭では、しっかりと野菜を水洗いし、最後に流水洗浄もして、汚れと共に菌を洗い流しましょう。その後に、清潔なまな板や包丁、容器などで調理すれば、野菜サラダも浅漬けも安全に食べられます。 では、市販の野菜サラダや浅漬けは? 工場で大量に製造する場合、たくさんの野菜を取り扱うため、水洗いだけでは限界があります。家庭のように丹念に葉と葉の間まで、蛇口に近づけて水で勢いよく洗い流せればいいのですが、そういうわけにもいきません。 そのため、多くの場合には食品添加物の殺菌料が用いられます。次亜塩素酸ナトリウムなどの殺菌料を一定の濃度になるように溶かし、それに野菜を浸すと、水に溶け込んだ塩素が菌を殺します。殺菌料の成分は分解されやすいうえ、食品衛生法に基づいて使用基準が定められ、「最終食品には残存しないこと」と決められているので、殺菌料を用いた後は十分に水洗いされ除去されます。 今回の浅漬け食中毒事件では、工場で塩素殺菌が行われていましたが、殺菌料の使用量が不足していた可能性が指摘されています。設備や漬樽なども不衛生だったとのことです。 食品は、だれがどこでどのくらいの量作るかによっても、食品添加物の必要性が変わります。自家製の浅漬けはおいしい。でも、市販の浅漬けも、手軽に食べられる優れもの。その安全を守るために、食品添加物も適切に使われなければならないのです。厚労省が「漬物の衛生規範」を改訂して事業者に求める二つの殺菌方法次亜塩素酸ナトリウム溶液(100ミリグラム/リットルで10分間、200ミリグラム/リットルで5分間)、またはこれと同等の効果を有する次亜塩素酸水等で殺菌した後、飲用適の流水で十分すすぎ洗いする次亜塩素酸ナトリウム溶液や次亜塩素酸水は、家庭用の塩素系漂白剤と同じ成分ですが、漂白剤には汚れを落としやすくするため界面活性剤が入っており、食用には使えません。食品製造には、「食品添加物」として認可されている製品が用いられ、使う場合の濃度も国によって定められ、しっかりと洗って食品には残留しないようにすることも決められています。75度で1分間、加熱する(※100ミリグラム=0.1グラム)

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