がんばらにゃ2012年12月号
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食の安全安心を考えるVol.7食にまつわるちょっとした疑問について科学ライターの松永和紀さんがわかりやすくお伝えします。2012.12月号4PROFILE食品の安全性や環境影響等を取材している科学ライター。京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち独立。「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学」(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞2008を受賞。消費者団体「FOOCOM」(フーコム)を設立し、「FOOCOM.NET」(http://www.foocom.net/)を開設した。酒を愛する夫、受験勉強中の娘とのてんやわんやの日々も楽しんでいる。松永 和紀さん食品添加物の安全守るリスク分析の仕組み 日本の食品安全行政は、2003年の食品安全委員会設立を機に大きく変わりました。「リスク分析(アナリシス)」の仕組みが導入されたのです。それまで、市民はよく知らされないまま、国の決めたやり方に従っていました。しかし現在は、リスクに関する情報が公開され、市民の理解や監視の下に、安全を目指す管理が行われています。審査厳しくなり情報も公開 リスク分析の仕組みは、健康への影響が起きるのかどうかを科学的に検討する「リスク評価」と、その結果を受けて実際のリスクを適切に小さくするための政策や制度を決めて実施する「リスク管理」、これらの過程で専門家や行政関係者だけでなく市民も、情報を共有し意見を述べ合う「リスクコミュニケーション」の3つから成り立っています。リスクに関する審査や検討、管理の方法などは以前に比べて厳しくなり、同時に制度の透明化が一気に進み、食の安全性は大きく向上してきました。 食品添加物の場合、メーカーが新しい物質を国の「指定添加物」として認めてもらい製造や販売をはじめたい、と考えると、表①のような多岐にわたる安全性試験を行って、その結果をまず、食品安全委員会に提出してリスク評価を受けなければなりません。同委員会が、さまざまな角度から審査し、健康に影響を及ぼさず問題がないと判断できる量などを決めると、今度はリスク管理機関である厚労省での検討に移ります。どの食品にどれくらいの量、どのように使えば、品質向上や微生物の制御など添加物の機能を発揮しつつ、でも、人には安全に利用できるか。こうしたことを、審議会などで詳細に検討し、使用方法を定めるのです。 両方の検討は、原則として審議が公開されますので、だれもが傍聴できます。パブリックコメントも実施され意見を述べることもできます。こうした過程で、その物質が有害なものであることを示す重要な論文を見落とされていないか、とか、恣意的な審議が行われていないかなども市民がチェックできます。 昔の食品添加物の制度とは大きく異なる新しいやり方で、食品添加物は規制され、その安全が守られているのです。安全性試験も数多く実施食品添加物の安全性を確認するために行われる主な試験表①出典:食品添加物活用ハンドブック(日本食品化学学会編)安全性に関しては、これらの試験結果を国に提出する。このほか、純度や品質、添加物としての有効性など、さまざまなことを調べ結果を提出して、審議を受けなければならない。28日間反復投与毒性試験90日間反復投与毒性試験1年間反復投与毒性試験繁殖試験催奇形性試験発がん性試験1年間反復投与毒性/発がん性併合試験抗原性試験変異原性試験一般薬理試験実験動物に28日間繰り返し与えて生じる毒性を調べる実験動物に90日間繰り返し与えて生じる毒性を調べる実験動物に1年以上、繰り返し与えて生じる毒性を調べる実験動物に2世代以上にわたって与え、生殖機能や新生児の生育などに及ぼす影響を調べる実験動物の妊娠中の母体に与え、胎児の発生、生育におよぼす影響を調べる実験動物にほぼ一生涯にわたって与え、発がん性の有無を調べる実験動物に1年以上、繰り返し与えて生じる毒性を調べると共に、発がん性の有無についても調べる実験動物でアレルギーの有無を調べる細胞の遺伝子や染色体への影響を調べる実験動物で、行動、中枢神経系、自律神経・平滑筋、呼吸・循環系、消化器系などへの影響を薬理学的手法で調べるげっ歯類1種以上および非げっ歯類1種以上に対して経口投与し、吸収、分布、代謝および排泄について調べる一般的な食生活を送る場合の摂取量調査体内動態に関する試験1日摂取量に関する調査安全性に関する試験

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