がんばらにゃ2013年2月号
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食の安全安心を考えるVol.9食にまつわるちょっとした疑問について科学ライターの松永和紀さんがわかりやすくお伝えします。2013.2月号4PROFILE食品の安全性や環境影響等を取材している科学ライター。京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち独立。「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学」(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞2008を受賞。消費者団体「FOOCOM」(フーコム)を設立し、「FOOCOM.NET」(http://www.foocom.net/)を開設した。酒を愛する夫、受験勉強中の娘とのてんやわんやの日々も楽しんでいる。松永 和紀さん組合員のみなさんからたくさんの質問をいただいたトランス脂肪酸の安全性について科学ライターの松永和紀さんにわかりやすく教えていただきました。 海外の研究で、トランス脂肪酸は、人の体に悪影響を及ぼす「LDLコレステロール」を増やし、多い方がよいとされる「HDLコレステロール」を減らすとされています。また、多量に摂取し続けると動脈硬化などによる心臓疾患のリスクを高めると考えられており、「なるべく食べないほうがいい」とされています。世界保健機関(WHO)は、トランス脂肪酸の摂取量について「総エネルギー摂取量の1%未満とすべき」と勧告しています。 トランス脂肪酸を多く含む食品は、マーガリンやショートニングなどと、これらを原材料として多く使う菓子パンやケーキ、揚げ物などです。こうした食品をよく食べる国では、多くの国民がWHOの勧告をオーバーしており、アメリカや韓国などは含有量を食品に表示することを義務づけました。これを受けて、日本でも一部の市民団体などが「狂った油」などと形容し、対策を求めたのです。 しかし、日本人の摂取量は、諸外国に比べるとかなり少ないのです。食品安全委員会が2011年にまとめたリスク評価書によると、日本人のトランス脂肪酸摂取量の平均値は、男性で総エネルギー摂取量の0・30%、女性で0・33%。また、トランス脂肪酸の摂取量を多い人から少ない人まで順に並べたときに多いほうから上位5%の位置にある人の数値(95パーセンタイル値)は男性で0・70%、女性で0・75%にとどまります。つまり、大多数の人がWHOの勧告値である1%を下回っています。 そのため、食品安全委員会は「日本人の通常の食生活では、健康への影響は小さいと考えられる」と結論づけました。科学者の多くは、脂質自体の摂り過ぎや塩分の強い味付けなどが、日本人にとってより深刻で生活習慣病に結びつきやすい問題だととらえています。塩分控えめでバランスの良い食事を心掛け、野菜や果物を多く摂り、脂っこいものは控える、という通常の注意が大事なのです。各国のトランス脂肪酸摂取の状況WHOは「総エネルギー摂取量の1%未満とすべき」と勧告しているが、国によりばらつきが非常に大きい。多くの国が数年おきに調査しており、摂取量は低下傾向にある。出典:食品安全委員会評価書「食品に含まれるトランス脂肪酸」トランス脂肪酸日本人の摂取量少なく 食の安全対策の中には、諸外国と日本で大きく異なるものがあります。食品の種類や食べる量が食文化によって違うので、対策も違って当然。ところが、理解されずに日本の対策が甘いかのように誤解されている場合も多いのです。その一つが、トランス脂肪酸です。総エネルギー摂取量におけるトランス脂肪酸の比率の平均値調査時期アメリカイギリスオーストラリア韓  国日  本男性2.0%・女性1.9%1.0%2~16歳0.6%・17歳以上0.5%子ども0.11%・10代0.13%・成人0.064%男性0.30%・女性0.33%2003~2004年2007~2008年2009~2010年2009~2010年2003~2007年

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