がんばらにゃ2013年4月号
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食の安全安心を考えるVol.11食にまつわるちょっとした疑問について科学ライターの松永和紀さんがわかりやすくお伝えします。2013.4月号12PROFILE食品の安全性や環境影響等を取材している科学ライター。京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち独立。「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学」(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞2008を受賞。消費者団体「FOOCOM」(フーコム)を設立し、「FOOCOM.NET」(http://www.foocom.net/)を開設した。昨年末『お母さんのための「食の安全」教室』(女子栄養大学出版部)を刊行。松永 和紀さんフードファディズムに惑わされない食生活を これを食べれば体にいい、あれを食べればやせられるー。特定の食品の効果を主張する科学者や企業を見ますが、根拠が薄い場合がほとんどです。信頼の厚い研究機関や国際機関などは、バランスのよい食事を適量食べるのが健康の秘訣、と口を揃えます。 ダイエットに効くと言われ、納豆売り場がからっぽになった6年前のことを覚えていますか。結局、テレビ番組のねつ造でした。その後も、多くの食品の健康効果が話題となってきましたが、ねつ造には至らずとも根拠のあやふやな話が目立ちます。 2012年には、トマトやトマトジュースを摂るとダイエットできる、と伝えられました。トマトジュースの特定の成分を合成して、肥満・糖尿病になりやすい特別なマウスの餌に混ぜる実験を行ったところ、血液中の中性脂肪低下などの効果が見られたからです。 しかし、体重に変化はありませんでした。第一、マウスで効いても人で効くとは限りません。また、トマトやトマトジュースでその成分を摂ろうとすると、日常生活とかけ離れた大量を食べなければなりません。人が普通に食べてダイエット効果があるかどうかは、証明されていませんでした。 私は、この研究をした京都大学の先生に直接お話をお聞きしました。医薬品や健康食品開発に向けて、有望な研究ではあるものの、実用化を山の頂上とするならまだ1合目か2合目を登ったくらいの感じ。先生自身、論文でも記者発表でも「痩せる」「ダイエット」という言葉は一切使わなかったそうです。なのに報道されてしまう。先生は、困っていました。 このように、特定の食品や成分を食べれば病気を治せると信じたり、科学的な根拠もなく特定の食品を排除したりすることを「フードファディズム」と呼びます。米国で産まれた概念ですが、これにより体を壊した例も数々あります。日本でのフードファディズム研究の第一人者、高橋久仁子・群馬大教授は「休養や運動の不足、不摂生な生活習慣のツケを帳消しにして、それさえ食べれば健康問題を解決してくれるというマジックフーズはなく、逆にそれを食べると病気になるという悪魔フーズもありません」と言います。 健康に早道はありません。フードファディズムに惑わされずに日々、バランスよく適量食べましょう。トマトダイエット根拠が薄いバランスよく適量の食事を1人1日分の食材。多品目の食品をバランスよく摂ることが、健康の秘訣となる。この品目数を、あなたは食べていますか?(写真:高橋久仁子・ 群馬大学教授提供)

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