がんばらにゃ2016年2月号
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 「国際がん研究機関」(IARC)が2015年10月、ハムやソーセージなどの加工肉を「人に発がん性あり」というグループに分類した、と発表しました。同じグループにたばこやアスベストなども含まれるためか、「ハムやソーセージは危ないの?」と受け止めた人がいるようです。でも、その解釈は間違いです。加工肉の発がん性報道日本人は影響考えにくい IARCの分類は、リスクの大きさにより決まるものではなく、根拠が確かか、信頼性の高い論文が多いかどうかで決まります。ハムやソーセージのリスクがたばこ並み、というわけではありません。IARCは、加工肉を毎日50g食べていると大腸がんのリスクが18%上昇する、という見解を出しています。また、牛や豚、羊などの肉(レッドミート)についても「おそらく人に発がん性あり」というグループに分類しました。こちらも、毎日100g食べ続けていると、大腸がんリスクが17%上昇するとしています。 少々わかりにくいですね。そこで、IARCの上部機関である世界保健機関(WHO)は一般市民向けのQ&Aを出しました。それによると、加工肉の大量摂取により世界で年間に3万4千人が死亡し、レッドミートの大量摂取は5万人に死をもたらします。一方、たばこは年100万人、飲酒は60万人、大気汚染は20万人の死につながります。たばこや飲酒に比べ、加工肉や肉のリスクがかなり小さいことがわかります。 IARCによれば、原因と推定できるのは肉を食べて体内で生成するニトロソ化合物や肉の加熱でできるヘテロサイクリックアミン類、燻製による多環芳香族炭化水素類などの発がん物質です。IARCは、添加物を原因には挙げていません。 これらの数字の多くは、欧米での調査を基に出されています。日本人については、国立がん研究センターが日本人約8万人を対象にした大規模な調査を実施したことがあります。日本人は加工肉の平均摂取量が1日13g、レッドミートは50gで、欧米でがんリスク上昇が検出されている人たちよりもかなり少ないのです。そのため、IARCの発表の後、国立がん研究センターは「平均的摂取の範囲であれば大腸がんのリスクへの影響はほとんど考えにくい」とコメントしています。 「そうは言っても、発がん物質が含まれているのでしょう。避けた方がいいに決まっている」という声が聞こえてきそう。でも、自然天然の発がん物質は、肉やハム、ソーセージだけでなく、米やパン、野菜や焼き魚、鰹節など、さまざまな食品に含まれています。家庭での加熱調理でも発がん物質はできます。どのような食生活を送ろうとも、発がん物質の摂取をゼロにすることはできないと考えられています。一方で、肉や加工肉は鉄や亜鉛、ビタミンB群など人に必要な元素の重要な摂取源でもあります。したがって、食べないと健康に別の問題を引き起こす可能性があります。 肉や加工肉の食べ過ぎはよくありませんが、排斥するのもまたよくないのです。バランスのとれた食生活の中で、適量を食べてください。PROFILE食品の安全性や環境影響等を取材している科学ライター。京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち独立。「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学」(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞2008を受賞。消費者団体「FOOCOM」(フーコム)を設立し、「FOOCOM.NET」(http://www.foocom.net/)を開設した。2012年『お母さんのための「食の安全」教室』(女子栄養大学出版部)を刊行。松永 和紀さん食にまつわるちょっとした疑問について科学ライターの松永和紀さんがわかりやすくお伝えします。肉・加工肉からとれる栄養も大事に考えてVol.28日本人のためのがん予防法―現状において日本人に推奨できる科学的根拠に基づくがん予防法― たばこは吸わない。他人のたばこの煙をできるだけ避ける。喫煙飲むなら、節度のある飲酒をする。飲酒食事は偏らずバランスよくとる。•塩蔵食品、食塩の摂取は最小限にする。 •野菜や果物不足にならない。•飲食物を熱い状態でとらない。食事日常生活を活動的に。身体活動適正な範囲に。体形肝炎ウイルス感染検査と適切な措置を。機会があればピロリ菌検査を。感染出典:国立がん研究センター http://ganjoho.jp/public/pre_scr/prevention/evidence_based.html2016.2月号4

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