がんばらにゃ2017年5月号
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食にまつわるちょっとした疑問について科学ライターの松永和紀さんがわかりやすくお伝えします。Vol.35PROFILE食品の安全性や環境影響等を取材している科学ライター。京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち独立。「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学」(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞2008を受賞。消費者団体「FOOCOM」(フーコム)を設立し、「FOOCOM.NET」(http://www.foocom.net/)を開設した。2012年『お母さんのための「食の安全」教室』(女子栄養大学出版部)を刊行。松永 和紀さん 食の安全に関する多くの問題の中でもっとも注意すべきなのは、やっぱり微生物が原因の食中毒です。あまりにも当たり前すぎて「たいしたことがない」と思いがちですが、お年寄りや病気の人は大きく体調を崩すきっかけとなります。妊婦の食中毒も、胎児に影響する場合があります。やっぱり一番気をつけたい微生物原因の食中毒 本欄では何度も微生物による食中毒を取り上げているため、「ああ、またか」と思われる方も多いでしょう。でも、リスクが非常に大きく家庭でも発生しているのに消費者の関心は低く、心配が尽きません。 原因として目立つのは、細菌では牛肉、鶏肉などから感染する腸管出血性大腸菌、カンピロバクター、サルモネラ菌、水産物の腸炎ビブリオなどです。ウイルスは、冬にカキなどの二枚貝や人から人への感染で大流行するノロウイルスが主です。 黄色ブドウ球菌も、比較的患者が多く出る細菌です。多くの人が普通に持っている細菌ですが、食品中で大量に増殖すると菌が作り出した毒素を大量に食べることになり、発症します。よくあるのは、指に小さな切り傷を作ってしまった人が、「この程度なら大丈夫」と食品加工に携わり、傷口で増殖していた黄色ブドウ球菌が食品につき、食中毒につながるケース。最近は、食品工場では手袋をするのが普通になり、事故はめっきり減りました。しかし、家庭では多数の食中毒が起きているだろう、と推測されています。 近年、厚生労働省が熱心に「気をつけて」と呼びかけ始めたのがリステリア菌です。河川水や動物の腸管内に広く存在する細菌ですが、低温や高塩分下でも増殖できる、という大きな特徴を持っています。4℃以下の低温でも増えるため、冷蔵庫の過信は禁物。さらに、12%程度の食塩濃度、これは、梅干しぐらいの塩辛さなのですが、そんな環境でも増えるのです。そのため、生ハムやスモークサーモン、無殺菌乳で作られた輸入物のナチュラルチーズなどが、リスクが高いとされています。 潜伏期間も長く、発症するのは数週間後。高熱や悪寒、筋肉痛などの症状が出ます。健康な人は発症しづらく食中毒になる確率が低い一方、高齢者や病気の人などは重症化しやすく、亡くなる場合もあります。とくに妊婦は要注意。感染すると、菌が胎盤や胎児に感染し、流産したり、胎児が産まれた後に亡くなったりします。 ところが、その怖さがあまり知られておらず、妊婦でも生ハムやナチュラルチーズなどを口にしています。ただし、きちんと加熱すれば大丈夫。それに、加熱して作るプロセスチーズや、缶入りのカマンベールチーズなどはリステリア菌の心配はありません。 食中毒は、その人の体力や感受性の強さの違いなどによって、症状の個人差が大きく出ます。自分の体の調子とも相談しながら食べて、食中毒を防ぎましょう。リステリア菌食中毒は妊婦に大きな影響手指の小さな切り傷が原因となるケースも出典:厚生労働省食中毒統計例年、夏は細菌が原因の食中毒が多く、冬はノロウイルスによる患者数が多い。2015年12月は、北海道の水産物で腸炎ビブリオが原因の大規模食中毒が発生した。原因中の「化学物質」は主に、細菌が作るヒスタミンによるもの。2015年の原因別食中毒患者数の推移5,0004,0003,0002,0001,00001月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月(人)細菌ウイルス寄生虫、化学物質、自然毒など2017.5月号4

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