がんばらにゃ12月号
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食にまつわるちょっとした疑問について科学ライターの松永和紀さんがわかりやすくお伝えします。PROFILE食品の安全性や環境影響等を取材している科学ライター。京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち独立。「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学」(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞2008を受賞。農林水産省農林水産技術会議委員、消費者委員会食品表示部会委員などを務めている。新刊は「効かない健康食品 危ない自然・天然」(光文社新書)。松永 和紀さんVol.44 新しい品種改良技術を用いた「ゲノム編集食品」が話題です。国はメリットを強調しますが、一部の消費者団体は反対しており、市民・消費者の不安の声は小さくないようです。2回にわたって解説しましょう。今回は、科学的な安全性を、次回は表示を取り上げます。ゲノム編集食品登場へ開発業者に届け出求める ゲノム編集は、生物の遺伝情報であるゲノムの特定の部位を意図的に切る技術です。ゲノムは、塩基というものが連なってできています。酵素というたんぱく質でゲノムの特定の部位を切ると、塩基が1〜数個抜けたり(欠失)、ほかの塩基と入れ替わったり(置換)、追加されたり(挿入)、という変異が自然に起き、よい性質が付加されたり悪い性質が抑制されたりします。 ゲノムが切られて変異が起きるという現象は、自然界で日常的に起きています。紫外線や自然の放射線など、さまざまなものが変異を引き起こします。それによりできた違う性質の生物を、人は見つけ出し選んで食べてきました。また、これまでの品種改良でも、種子に強い放射線をかけたり化学物質にさらしたりしてランダムにゲノムを切り、その中からよいものを選ぶ、というやり方をとってきました。 ゲノム編集と、これらの突然変異や品種改良との違いは、狙った部位に変異を起こさせることです。厚生労働省は専門家らの意見を詳しく聞き、外から新しい遺伝子を入れ込む遺伝子組換えとは異なるゲノム編集については「安全性において、自然の突然変異や従来の品種改良と差異がなく同等」と結論。そのため、新品種として市場に出すにあたっての審査は必要ない、と結論づけました。ただし、新たな技術に対する消費者の不安などへも配慮して、開発業者に届け出を求めることとなりました。 反対する人の多くは、「オフターゲット変異」を気にしています。ゲノムの特定の部位だけでなく、知らないうちに他の似た部位も切ってしまい、悪い性質が付加されてしまうのでは、という疑問です。 ゲノム編集は医療でも用いられ、オフターゲット変異は大問題。しかし、農業の品種改良はゲノムを切った後の工程が医療使用と異なり、仮にオフターゲット変異が起きても後に取り除かれるとみられています。専門家は「医療と農業における品種改良を混同しないで」と訴えています。 ゲノム編集食品の最大のメリットは、品種改良にかかる時間を大幅に短縮でき、効率よく新しい品種を作れることです。穀物や野菜など、さまざまな生物のゲノム情報がすでにわかっている時代になったからこそ、特定の部位を切るゲノム編集をできるようになったのです。 地球温暖化に強い/病害虫に強い/収穫量が多い…などの新しい品種を、短時間で生み出せる、と期待がかかります。現在研究中のゲノム編集食品を表にしました。GABAを多く含むトマトが届け出第1号になる、とみられています。メリットは効率化品種改良時間を短縮ゲノムを意図的に切りよい性質に変える現在開発中の主なゲノム編集食品おとなしいマグロ肉厚マダイ角のない牛高収量のイネGABAを多く含むトマト食中毒のリスクを低減したジャガイモ高オレイン酸ダイズ不飽和脂肪酸のオレイン酸が多く、飽和脂肪酸が少なくトランス脂肪酸が含まれない芽や緑色になった皮の部分にできるソラニン類が、合成されないようにするリラックスさせたり血圧上昇抑制の機能があるとされるGABAを高蓄積させる穂の枝分かれや米粒の大きさにかかわる遺伝子に突然変異を起こさせ、収量を上げる角は飼育時にほかの牛を傷つけるため切り取られるが、牛にとっては痛みを伴う。そのため、最初から角を持たない牛を開発筋肉量を増やし、食べられる部分を増やすCalyxt社すでにアメリカでは市販が始まっているが、日本には輸入実績はない大阪大学など筑波大学など厚生労働省への届け出に向けて準備中国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構などカリフォルニア大学デービス校など京都大学などマグロは養殖時に衝突して死にやすいため、おとなしくして衝突死を防ぎ、養殖効率を上げる国立研究開発法人 水産研究・教育機構など特 徴開発者…ハーツ・      …コープの宅配 で取り扱っています ※取り扱い状況は、変更になる場合もありますのでご了承ください。宅3

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