がんばらにゃ2022年7月号
4/16

PROFILE食品の安全性や環境影響等を取材している科学ジャーナリスト。京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち独立。「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学」(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞2008を受賞。2021年7月より内閣府食品安全委員会委員(非常勤)。本記事は食品安全委員会の見解ではなく、個人の判断により執筆しています。松永 和紀さん付けない増やさないやっつける食中毒を防ぐ3原則の主な内容・調理前や食事前、トイレの後など、しっかり手を洗う・調理器具は使うたびによく洗う・調理の順番に気をつけ、生の魚や肉を扱った調理器具で、非加熱で食べるサラダなどを作らないようにする・使い捨て手袋やラップを上手に利用する・肉は洗わない・購入した肉や魚、惣菜などはすぐに冷蔵庫に入れて低温保管し、なるべく早く食べる・-15℃以下では菌の増殖が止まるため、冷凍庫も上手に利用する・お弁当は中に詰めた食品が冷えてからふたをし、食べるまでの保管には保冷剤も活用する・肉や魚は中心部まで75℃で1分以上加熱して菌や寄生虫などを殺す・野菜はよく洗う・調理器具も熱湯や塩素系漂白剤などで消毒するVol.55.食にまつわるちょっとした疑問について科学ライターの松永和紀さんがわかりやすくお伝えします。 「食の安全」問題の中でもっとも注意が必要なのは、微生物による食中毒。ああ、またこの話?と思わないで。年間に1〜2万人の患者が発生し、中には亡くなる人もいて、深刻な課題です。予防のポイントをお伝えします。怖い!微生物の食中毒暑い時こそ「予防の3原則」 食中毒の原因となる微生物は主に3種類。「細菌(腸管出血性大腸菌やカンピロバクター、サルモネラ菌など)」と「ウイルス(ノロウイルスなど)」、「寄生虫(アニサキスなど)」です。とくに夏場は温度、湿度が高く、細菌が増殖しやすい時期。細菌の食中毒を防ぐには「付けない、増やさない、やっつける」の3原則が有効です。 まずは、細菌を食品に「付けない」ように、調理や食事前、トイレの後など、しっかりと手洗いしましょう。手はきれいに見えても雑菌だらけなので、石けんや液体ソープなどを用いて洗い、清潔なタオルで拭きましょう。 細菌を「増やさない」ためには、冷蔵庫や冷凍庫の活用を。真夏の室温に食品を放置すると、細菌1個が4時間後には約1万個にもなります。低温にすると菌の増殖が抑えられます。 ただし、4℃以下の低温でも増殖できる食中毒菌もいます。冷蔵庫、冷凍庫も過信はせず、なるべく早く食べるのをお勧めします。 細菌を「やっつける」には、加熱が効果的。食材の中心部が75℃になる条件で1分間以上加熱しましょう。また、人参やトマト、きゅうりなどの野菜は内部は無菌ですが、外側には細菌がかなり付いています。生で食べる場合には、流水で外側をしっかりと洗い菌を取り除いてから調理しましょう。「付けない、増やさない、やっつける」を守る 3つに共通して意外に気づきにくいのが、まな板や包丁、箸、ボウルなど調理器具による汚染。せっかく食品を洗ったり加熱しても、その後に菌が付着した調理器具の汚染にも注意ラップや保冷剤の活用も調理器具で食品を扱うと、また細菌が付き増殖し始めます。調理の順に気をつけ、肉や魚を扱ったまな板でサラダを…というようなことがないようにしましょう。 肉を流水で洗い、水がはねて周囲を汚染、というような事故も起きています。とくに鶏肉は、カンピロバクターという食中毒菌が付いている割合が高く、洗うとシンクや調理器具、食品の汚染につながります。肉は洗わないようにしましょう。カンピロバクター食中毒を予防するには、鶏肉を中心部までしっかり加熱するのが効果的です。 また、作った後に時間が経ってから食べるお弁当やおにぎりはとくに注意を。調理の途中や後にうっかり細菌を付けてしまうと、食べるまでに増殖しやすく食中毒につながります。使い捨て手袋やラップを用いて菌を付けないようにし、弁当箱のふたは、詰めた食品が冷えてから閉めましょう。保冷剤も上手に活用してください。 細菌のほか、寄生虫アニサキスの食中毒にも気をつけて。サバ、アジ、イカ、イワシ、サンマなどによくいるので、魚介類が大好きな福井の方々は要注意です。「酢で〆ればよい」「しょうゆとわさびで殺菌」などと言われますが、効果はありません。アニサキスは魚介類の冷凍や加熱で「やっつける」ことができます。2022.7月号4

元のページ  ../index.html#4

このブックを見る