がんばらにゃ1月号
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 輸入食品は2021年度、246万件、計3163万トンに上りました。小麦や大豆などの穀物、肉や魚介類、野菜、加工食品など種類はさまざま。そのうち809件が違反となり、廃棄や積み戻し、食用以外への転用などが行われました。違反の主な原因は、腐敗やかび毒、残留農薬の基準超過や日本で認められていない添加物の使用などです。 検査についてはよく、1割にも満たない数しか調べていない、と言われるのですが、妥当な批判とは言えません。1990年代頃までは、食品ができあがった後に検査で悪いものを見つける「検査中心主義」でした。しかし、検査で確認した部分は検査後、廃棄されます。検査に頼っていては、私たちが食べる部分が安全かどうかは確認できないのです。 そのため現在は、生産時に生じうる「リスク」を予測しあらかじめ対策を講じて生産し、できた食品から統計学に則って一定数をサンプリングして検査する、というやり方がとられています。こうすれば、検査対象以外の部分も、安全が確保されます。 具体的には現在、食品輸入は3段階の取り組みが実行されています。第1段階の「輸出国対策」では、海外の国や地域が、日本の規制にあった生産や加工などを行い衛生管理にも努めて、食品を輸出します。日本の厚生労働省も普段から情報を提供するなどして、協力します。 第2段階の「輸入時対策」では、それらの食品が輸入される際に、きちんと書類を届け出てもらい厚生労働省がチェック。さらに、一部を検査し、違反が見つかると廃棄などの措置を講じると共に、その情報を公表します。輸出国は情報を得て改善に努めます。 第3段階は「国内対策」です。自治体などが、流通する輸入食品を店頭などから収去して検査しています。福井県は2021年度、30点の輸入食品について細菌汚染や残留農薬、添加物など2000件あまりの検査を行い、違反はゼロでした。 輸入の際には船で時間をかけて運ぶことが多く、防かび剤などが使われることがあります。防かび剤を嫌う人は少なくないのですが、残留の規格が設定されており、食品における残留量が規格を超えなければ安全性の問題は生じません。防かび剤を使わないと、輸送中にかびが大量増殖し、かび毒を作る場合があります。食品ロスにつながるうえ、かび毒の中には強い毒性を持つ物質もあります。 日本人は「輸入食品より国産食品の方が安全だ」と考えがちなのですが、そう言える根拠はありません。日本の食品が輸出先の欧米やアジアの国々などで違反となるケースも、実は少なくありません。 輸入食品の管理や検査は、科学的に行われています。作ってくださっている外国の方々に感謝しながら食べましょう。 日本の食料自給率は38%(供給熱量ベース、2021年度)。日本は人口が多いのに農地は少なく、国産食品だけではまったく足りません。多くの輸入食品に助けられています。輸入食品の安全性がどのように守られているのか、解説します。輸入届出件数(万件)違反率(%)3000万トンの食品が世界から輸入されている3段階の対策で安全性を守る輸入食品の安全性は科学に基づき守られているPROFILE食品の安全性や環境影響等を取材している科学ジャーナリスト。京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち独立。「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学」(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞2008を受賞。2021年7月より内閣府食品安全委員会委員(非常勤)。本記事は食品安全委員会の見解ではなく、個人の判断により執筆しています。8.3%にあたる20万件あまりが検査され、3002502001501005002006輸入食品の届出件数は年々増えている(2020年度は新型コロナウイルス感染症の影響もあり減少)。違反率は以前に比べれば低い。市民の関心の高い中国は、日本における最大の輸入相手国で、違反率は近年、平均より低い傾向が続いている。(出典:厚生労働省 輸入食品監視統計)輸入届出件数・中国以外の各国輸入届出件数・中国輸入届出件数に対する違反率・各国平均輸入届出件数に対する違反率・中国0.1200820102012201400.080.060.040.02201620182020届出と違反率の輸入食品の推移2023.1月号4松永 和紀さんちょっとした疑問について科学ライターの松永和紀さんがわかりやすくお伝えします。食にまつわる

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