数百倍発生しているかも微生物の食中毒 厚生労働省の食中毒統計では、例年全国で計1〜2万人の患者が発生し、その8割以上の原因が細菌とウイルスです。腸管出血性大腸菌やカンピロバクター、ノロウイルスなどの患者の多さが目立ちます。残る2割弱の原因は、寄生虫やフグ毒、キノコ毒などです。 ところが、細菌とウイルスの食中毒統計は過小であり、患者は実際にはもっと多いと考えられているのです。 統計数字は、患者が病院を受診し検査が行われ保健所に届けられたケース。しかし、多くの人は食べて具合が悪くなっても軽い症状で済めば病院へは行きません。受診しても、病院が検査せず、整腸剤などの処方で済ますことが少なくありません。厚生労働科学研究などにより、細菌の種類によっては統計数字の100倍以上の患者が発生しているおそれがあることが分かっています。もしかすると年間数百万人の患者が細菌やウイルスにより発生しているかもしれません。 それに、軽症で済む人が多いのは事実ですが、重い後遺症を抱えてしまう人も少なくないのです。 微生物の食中毒予防において非常に重要なのは「手洗い」。トイレの後や調理前、食事前など、石けん、ハンドソープを用い温水でしっかり手洗いして、手に付いた細菌やウイルスを洗い流しましょう。そのうえで、「付けない、増やさない、やっつける」という3原則を守りましょう(表参照)。 とくに近年、発生が非常に多いカンピロバクター食中毒に注意を。防止策は、①カンピロバクターは鶏肉にいることが多いので、生の鶏肉は洗わない(洗うと、菌に汚染された水が飛び散りシンクや水栓、近くに置いてある食品などに付き二次汚染を招くため)、②鶏肉の汚れが気になる場合はペーパータオルで拭き取り、ペーパータオルは捨てる、③鶏肉は、十分に加熱調理する(中心部を75℃以上で1分間以上加熱)、④鶏肉を扱った後は、手やまな板、調理器具など、十分に洗浄する…などを実行してください。 2020年から新型コロナウイルス感染症が流行し、飲食店が営業自粛したり、多くの人が手洗いをしっかりしたためか食中毒が減りました。例年1〜2万人発生していた患者が、2021年は11,080人、22年6,856人、23年11,803人と少なめでした。専門家らは24年、多くの人の気が緩み、手洗いなどの基本動作が疎かになるのでは、と心配しています。食中毒防止に努めましょう。増やさない細菌やウイルスを食品に付けない。手やまな板、包丁など調理器具を介しての二次汚染にも注意する。細菌が食品中で増えないように、冷蔵や冷凍など適切な温度で保存する(ウイルスは、食品中では増えず、ヒトの体の中に入ってから増殖する)。調理後はすみやかに食べる。野菜などはしっかり水洗いして細菌やウイルスを取り除く。食品を十分に加熱すると、殺菌やウイルスの不活化ができる。食品の安全性や環境影響等を取材している科学ジャーナリスト。京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち独立。「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学」(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞2008を受賞。2021年7月より内閣府食品安全委員会委員(非常勤)。本記事は食品安全委員会の見解ではなく、個人の判断により執筆しています。ああ、また食中毒予防の話?! そう思わないでください。なぜかといえば、細菌やウイルスなど微生物による食中毒がやはり、食の安全問題の中で最大の脅威だからです。松永 和紀さんPROFILE42024.6月号やっつける付けないVol.62食の安全・安心鶏肉は洗わないで手洗いなどの基本を押さえて微生物による食中毒予防の3原則
元のページ ../index.html#4