残留農薬が気になる?輸入農産物も手厚く検査142024.11月号 農産物の残留農薬が気になる人は少なくありません。国産農産物については毎年度、農林水産省が農家の使用状況と残留について調べています。2022年度は469戸の農家を調査し、1戸で誤った時期に使用していたのが見つかりました。計2,395点の残留農薬を検査しましたが、違反は見つかりませんでした。都道府県など自治体も検査をしていますが、違反がひんぱんに見つかるわけではありません。 一方、輸入農産物は厚生労働省が港や空港などで検査を行っています。輸入食品統計によれば2023年度、輸入届出件数が235万件で総重量は約3,000万トン。届出件数の8.5%、約20万件を対象に検査が行われ、763件の違反が見つかりました。この中にはかび毒や微生物などの違反も含まれており、残留農薬の基準違反は156件でした。 国産に比べて多いと思われるかもしれませんが、なにせ検査件数が格段に多いので、違反が見つかるのも当たり前でしょう。また、農薬の残留基準は国によって大きく異なる場合があり、どの国でも他国産は国内産に比べて違反率が高くなるのが普通です。 残留基準が国によって異なるのは、それぞれの国で気候風土や栽培する作物の種類などが異なり、使われる農薬の種類や農産物を摂取する量が違うため。安全性とは関係がありません。そのため、日本産の農産物も輸出されて台湾やヨーロッパなどでしばしば、残留基準を超過し違反となっています。自治体による検査結果などを見ても、国産と輸入食品で残留農薬の安全性に大きな違いはない、と考えられます。 厚生労働省の輸入検査については、「1割足らずしか検査されていない」などとメディアでよく指摘されます。でも、検査後の食品は食べられないので、検査は常に大量から少量を採取して行います。100%検査しても大部分は未検査。したがって、統計学に則って適切な数を適切なサンプリングによって行う、という手法が取られています。 大型船に積まれた穀物から何例サンプリングするか、どの部分から何kg採取するか、コンテナに入れての輸送の場合には、コンテナからどのようにサンプリングするかなど、細かく決められ、それを正しく行うことで輸入食品全体の管理につなげています。「わずかしか検査していない」という主張は、輸送や検査に詳しくない人を狙った不安を煽る手法です。 食品全般の残留農薬については、厚生労働省が毎年度、全国8地域のスーパーマーケットなどで売られている食品を買い集めて調理して平均的な一日摂取量を推定しています。ほとんどの農薬の平均摂取量が許容一日摂取量(ADI)の1%を大きく下回っています。この結果からも、適切に栽培された国内外の農産物に懸念を持つ必要はない、と言えるでしょう。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/zanryu/index.html食品の安全性や環境影響等を取材している科学ジャーナリスト。京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち独立。「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学」(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞2008を受賞。2021年7月より内閣府食品安全委員会委員(非常勤)。本記事は食品安全委員会の見解ではなく、個人の判断により執筆しています。2022年度松永 和紀さん農薬成分名アセタミプリドイミシアホスエトフェンプロックスグリホサートジノテフランジフェノコナゾールチアクロプリド48農薬について調査が行われたが、33農薬(イミダクロプリド、チアメトキサム、クロチアニジン、ニテンピラム、アルドリン及びディルドリンなど)は、定量できるほどの検出がなかった。出典:厚生労働省資料許容一日摂取量(ADI)(mg/kg 体重/日)0.0710.00050.030.220.00960.012平均一日摂取量 調査でわかった平均摂取量の対ADI比(%)0.006〜0.0460.041〜2.9540.000〜0.0940.010〜0.0200.027〜0.0450.004〜0.1480.006〜0.237(µg/人/日)0.23〜1.850.01〜0.830.00〜1.595.45〜11.083.31〜5.590.02〜0.800.04〜1.60PROFILE国や自治体が調べている許容一日摂取量を大きく下回るVol.64食品中の主な残留農薬の一日摂取量調査結果食の安全・安心
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