52025.2月号<任意後見契約と家族信託との違い>1.任意後見契約は成年後見契約の一つですので、身上監護ができます。家族信託では身上監護はできません。2.任意後見契約は本人の財産のすべてを管理していくのに対し、家族信託では当初決めた「信託財産」だけを管理していきます。3.任意後見契約は、契約しても本人の判断能力が無くなり家庭裁判所から監督人が選任されるまでは発効しません。家族信託は、契約した時点で財産を受託者(財産を預かる人)に信託財産を移転してスタートしていきます。4.任意後見契約は、委託した人、受任した任意後見人のいずれかが亡くなったら契約は終了します。受任した人が先に亡くなっても終了します。家族信託は、財産を預かり管理する受託者が先に亡くなっても、後継受託者が後を引き次いで契約を継続させることができます。シニアのライフプラン、おひとり様の老後マネー、親の介護問題や財産管理、相続など有料相談をメインに、執筆やセミナーなどで情報を発信。実父と舅を看取り、近年実母と姑を見送ったばかり。近著に「そろそろ親とお金の話をしてください」(ポプラ新書)、「もめないための相続前対策」(河出書房新社)がある。 認知症対策は、介護だけでなく、「お金」についても対策が必要になります。 認知症とは、認知症基本法の定義によると「アルツハイマー病その他の神経変性疾患、脳血管疾患、その他の疾患により、日常生活に支障が生じる程度にまで認知機能が低下した状態として、政令で定める状態」を言います。アルツハイマー病だけでなく、脳溢血や脳梗塞のような病気の後遺症もありますので、徐々に認知症が進むだけではなく、突然倒れて認知症状態になることもあるわけです。 資産が凍結されて家族が介護や医療の費用負担をしなくてもよいように、親御さんが元気なうちに、「任意後見契約」または「家族信託」のいずれかの準備をしておくとよいでしょう。 「任意後見契約」は、身上監護と財産管理を目的とした成年後見制度の一つです。元気なうちに、判断能力が無くなったときの自分の財産の使い方(財産管理)とどのような介護を受けたいかという身上監護について、信頼のおける人を選んで自分の希望をまとめて決めておく契約です。公正証書による契約書を作り、法務局に登記されます。 認知症の症状が進み判断能力が無くなったときに、家庭裁判所に「任意後見監督人」選任の申立をして、選任されてから、契約が始まります。 「家族信託」は、信頼する親族に財産を預けて管理をしてもらう仕組みです。認知症になった後でも、契約時点で決めたとおりに財産の管理をしてもらえるので、寝たきりになっても介護費用や医療費に本人の財産を使うことができるようになります。 任意後見契約も家族信託も、本人が認知症になってからでも介護費用の捻出のために、自宅不動産の売却をすることができます。 財産管理の自由度が高いのは家族信託です。任意後見契約は、監督人が家庭裁判所から選任されてくるので、3ヶ月ごとに報告しなければなりませんし、高額な支出の際には、契約時点の本人の意思が確認されなければ、監督人から指摘されて、支出をすることができません。少し窮屈に思うご家族も多いです。 家族信託は、家庭裁判所とは全く関係なく財産を管理していくことができるので、受託者やご家族が、本人のためになると思う介護や医療について支出をすることができます。 私が家族信託を作るお手伝いをするようになって10年以上たちます。士業の方などの作られた契約書をよく見ますが、残念なことに「作っておしまい」という契約書が多いです。家族信託は、資産が受託者に移転されてからがスタートです。私は最期までそのご家族と関わるつもりで携わっています。 おひとり様には任意後見契約をおすすめしています。財産管理だけでなく身上監護ができるので、安心できると思います。その際もライフプラン条項を設けるなどして、認知症になった後の人生が楽しめるようにヒアリングしてまとめています。 どちらにしても、そのご家族の家族構成や経済事情に応じて事前対策をした方がよいですから、専門家に相談して取り組まれるとよいでしょう。認知症になると、「預貯金が引き出せなくなる」「不動産の売却ができない」など、資産が凍結して親のお金で介護をすることが難しくなります。ここでは事前対策の「任意後見契約」と「家族信託」についてお伝えします。元気が出るお金の相談所 所長マネーセラピスト安田 まゆみさん家計防衛に関するお役立ち情報を毎月お届けします次回は「親にエンディングノートを書かせてはいけない?」をご紹介しますPROFILE知っておきたい家計防衛術Vol.8お金の認知症対策〜任意後見と家族信託〜
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