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福島原発廃炉に向けた ALPS処理水放出の意味は…

東京電力 福島第一原子力発電所(福島原発)の事故から12年。廃炉へ向け、ALPS処理水の海洋放出が始まりました。海や水産物の安全はどのように守られるのでしょうか?

トリチウムは基準未満に薄める

 ALPS処理水は、事故で発生した放射性物質を高濃度に含む汚染水を、多核種除去設備(ALPS:Advanced Liquid Processing System)などにより繰り返し浄化処理した水のことです。セシウムやストロンチウム、コバルトなど62種類の放射性物質は取り除かれ、環境放出の際の規制基準を下回っています。

 ALPS処理水は、原発敷地内のタンクに貯蔵されてきましたが、タンクは増え1,000以上になり、廃炉作業に支障が出てきました。そこで、どう処分するのか6年以上検討されました。問題が1つありました。トリチウムという放射性物質のみは、ALPSでは除去できないのです。トリチウムは水素の仲間で、水に低い濃度で存在する場合、現在の科学技術では取り除けません。

 トリチウムが出す放射線は非常に弱く、外部被ばくは起こりません。また、トリチウムを含む水を飲んでも排出され、体内に蓄積することはなく、内部被ばくも著しく小さいと考えられています。そもそもトリチウムは、宇宙から地球へ降り注ぐ「宇宙線」と地球上の大気により常に発生しています。水道水や雨水にも含まれ、私たちの体の中にもあります。

 こうしたことを踏まえALPS処理水の対応について5つの方法を検討した結果、「海洋放出」が決まりました。その際にはさらに海水で薄め、トリチウム濃度は国の定めた安全基準の40分の1(世界保健機関(WHO)の飲料水基準の約7分の1)未満とします。濃度だけでなく年間放出量も調整し、計画的に海に出してゆきます。

検査値は公表されている

 海洋放出は、国連の機関「国際原子力機関」(IAEA)からも「国際安全基準に合致している」として認められています。国内外の原子力発電所は従来から、トリチウムの混じった水を排出しており、どこでもヒトや環境などへの影響は見出されていません。

 ALPS処理水の放出前後の海水や水産物の放射性物質濃度も検査され公表されていますが、現在のところ異常はありません。東京電力や国、福島県などがさまざまな解説資料を提供しておりWEBサイトでも読むことができます。

ALPS処理水を処分するにあたっては安全性を確認します

ALPS処理のプロセス

作業1、汚染水をALPS処理し、ALPS処理水に変換する(トリチウム以外の核種を規制基準未満に確実に浄化する)確認1、放出前に、ALPS処理水に含まれるトリチウム以外の放射性物質が規制基準を下回ることを確認。作業2、海洋放出し、100倍以上に希釈し、トリチウム濃度を1,500ベクレル/ℓ未満に(処分時のトリチウム総量は、年間22兆ベクレル未満(事故前の管理目標と同じ))確認2、放出後も、モニタリングにより海域や水産物のトリチウム濃度などを確認。

(※1)各段階の測定について、IAEAなどの第三者機関も測定し、客観性を確保

(※2)規制基準の1/40、WHO飲料水基準の約1/7。2015年以降、海洋放出中のサブドレンの水の濃度と同じ

出典:経済産業省資料 https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/hairo_osensui/alps.html

PROFILE

松永 和紀さん写真

松永 和紀さん

食品の安全性や環境影響等を取材している科学ジャーナリスト。京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち独立。「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学」(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞2008を受賞。2021年7月より内閣府食品安全委員会委員(非常勤)。本記事は食品安全委員会の見解ではなく、個人の判断により執筆しています。

Ganbaranya(がんばらにゃ)2023年12月号より

#食

2023年12月